会計処理

利益準備金とは?積立超過や取り崩しなど初心者向けに基本を徹底解説!

更新日:2023.06.30

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決算が完了すると計算書類を作成して株主総会の準備が始まります。株主総会は総務部の管轄ですから経理担当が深くかかわることは少ないかもしれませんが、株主総会の議題となる配当金については決算時に確認します。
会社法で配当金の1/10を利益準備金として積み立てなければならないためです。しかし、積立額には上限がありますので際限なく積立てるわけではありません。利益準備金と資本準備金との合計が資本金の1/4が上限です。

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この記事では経理だけでなく総務として招集通知の作成に携わった経験のある筆者が利益準備金の計算方法と積立超過や取り崩しなどの基本について解説します。

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利益準備金とは

利益準備金とは利益剰余金のひとつで資本準備金とあわせて法定準備金とよばれます。会社法により定められたもので、株主に配当するときに積立てるルールとなっています。会社の利益をすべて配当として支払ってしまわないように内部留保する仕組みです。
利益準備金には上限が設けられており、超えた場合は積立てる必要はありません。
利益準備金の積立のポイント
① 配当金の1/10を利益準備金として積み立てる
② 利益準備金は資本準備金との合計が資本金の1/4まで積み立てる
利益準備金の積立ては企業の財政基盤の安定をはかり、債権者を保護する目的があります。

利益準備金の計算方法と仕訳

利益準備金の計算方法と仕訳を確認しましょう。
利益準備金の金額を計算する場合は前項のポイントの①②をそれぞれ計算して小さい額を積立てます。
仮に配当金200,000円で原資が利益剰余金、資本内訳が資本金2,000,000円・利益準備金200,000円・資本準備金200,000円の場合を計算してみましょう。
ポイント①②を個別に計算して小さい方とりますので、
① 配当金200,000×1/10=20,000円
② 資本金2,000,000円×1/4-(利益準備金200,000円+資本準備金200,000円)=100,000円
①<②となり①:20,000円が積立てる利益準備金となります。
例の場合はすべてが「その他利益剰余金」を原資にしているので割合を考えることなく仕訳します。
利益準備金の仕訳例

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
繰越利益剰余金220,000未払配当金200,000
  利益準備金20,000

 
仮に配当の原資に「その他資本剰余金」が含まれていれば割合を計算して「資本準備金」も計上することになります。
決算で税計算する税理士に配当予定を聞かれることがあると思います。配当金を未払配当金で計上しているかの確認だけでなく、利益準備金の積立額もチェックしているのです。
ちなみにこの時点での配当金はあくまで予定です。株主総会の決議を経て配当をだすことや金額が確定されますので覚えておきましょう。

利益準備金と資本準備金の計算

株主に支払う配当金の原資は繰越利益剰余金だけとは限りません。資本剰余金が原資となることもあれば、両方を原資として配当とすることもあります。
資本剰余金を配当の原資とする場合は資本準備金を積立てます。資本剰余金は株式を発行する際の株式発行差金・株式払込剰余金などの資本取引により発生するので覚えておきましょう。
利益準備金と資本準備金の両方が配当の原資となる場合の準備金の計算は、繰越利益剰余金と資本剰余金の割合を算出して積立額を計算します。
前項の例の配当金200,000円の原資が繰越利益剰余金100,000円と資本剰余金100,000円であれば割合は半々ですので、準備金も利益準備金と資本準備金をそれぞれ50%計上します。
利益準備金の仕訳例

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
繰越利益剰余金110,000未払配当金200,000
その他資本剰余金110,000利益準備金10,000
  資本準備金10,000

利益準備金の積立超過とは

利益準備金の積立ルールと計算方法をご説明しましたが、利益準備金の上限を超えても積立てることは可能です。会社法で定められた上限を超えて積み立てた積立超過分は法定準備金としては扱わず任意準備金となります。法ではなく株主総会の決議により積み立てているという扱いになるので任意積立金ともよびます。
任意積立金には退職給付積立金のように特定の目的のために積み立てる「目的積立金」と、特定の目的を定めずに配当余力や余裕資金として積み立てる「無目的積立金」があります。無目的積立金は一般的には別途積立金の勘定で処理しているのではないでしょうか。

利益準備金の取り崩すのはどんな時?要件は?

利準備金の取り崩し

利益準備金の取り崩すのはどんな時でしょうか。利益準備金を取り崩すのは欠損を補填する場合や資本に組入する場合です。
取り崩しを行うには資本額を資産が下回っていなければなりません。資本の欠損を補填するために取り崩すときの「資本欠損」は次の式により判断します。
資本欠損 : 純資産額 < 資本金+資本準備金+利益準備金
剰余金で損失を補填できるときは取り崩しができませんので注意しましょう。
また、利益準備金は法定準備金ですので取り崩しに一定の手順をふまなければなりません。
決算後の手続は大まかに次のように進んでいきます。会社により多少のタイムラグはあると思いますが利益準備金と取り崩すための例としてご説明します。
① 決算完了
② 監査役に計算書類を提出
③ 決算取締役会
④ 招集通知作成
⑤ 官報に準備金の額の減少公告および個別の催告
⑥ 株主に招集通知の発送
⑦ 株主総会
⑧ 取締役会
⑨ 決議通知作成・電子公告
⑩ 債権者保護手続の期間満了
⑪ 準備金の額の減少の効力発生
⑫ 登記
⑬ 許可業種の変更の届出
利益準備金(会社法では資本準備金とあわせて「準備金」とします)を取り崩すためには⑥の株主総会の普通決議だけではなく⑤債権者保護手続が必要な場合もあります。全額資本金に組入れる場合は保護手続が不要ですのでケースバイケースでちがってきますが、個別に債権者へ催告したり官報に載せたり、定款の定めにより電子公告をします。
法定準備金である利益準備金は任意積立金より取り崩すハードルが高いことを認識しておきましょう。
ちなみに資本金を減少させることを減資といいます。減資は重要事項で株主総会の特別決議が必要となります。さらにハードルが高いイメージです。
⑫⑬は準備金の取り崩しに関係なく株主総会の後に通常行う処理です。役員の再任や変更などにより発生しますので覚えておくとよいかもしれません。

引用:株式会社エルアイイーエイチ|電子公告IR情報

決算書で利益準備金はどう表示する?

株主資本等変動計算書
純資産の部

利益剰余金は、貸借対照表の「純資産」の部に表示します。また、利益準備金を含む資本の構成変化を把握するために「株主資本等変動計算書」を作成します。株主資本等変動計算書と貸借対照表の資本の部の関係を確認しておきましょう。
下の図は純資産の各項目を横に並べる様式の株主資本等変動計算書の例です。

引用:中小企業の会計に関する指針|株主資本等変動計算書の例示 P.59
利益準備金の列と当期末残高の行が重なる「E」を貸借対照表の利益準備金に表示します。A~Nも下の図のように貸借対照表に表示していきます。

引用:中小企業の会計に関する指針|貸借対照表の例示  P.57
決算書だけでなく法人税の申告書の別表でも利益準備金の増減を記載しますので注意しましょう。

まとめ

利益準備金が順調に積まれているということは企業が安定した経営をして株主に配当をしてきた証です。利益準備金は法定で定められた額まで積んでしまえば積むことはないので歴史のある企業の経理担当者には馴染みの薄い勘定かもしれません。貸借対照表に表示されているけども数字は毎期かわらない・・・くらいの認識の場合もあるでしょう。
しかし、今のような社会情勢では利益準備金を取り崩す可能性もありますので基本的なことは押さえておくとよいと思いますよ。

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